環境にやさしいBorrowing Hydrogen法


アミン類をはじめとする求核的試薬のアルキル化反応は基礎的な分子変換であるが,従来はアルコールから量論的な反応により誘導される有機ハロゲン化物やその等価体がアルキル化剤として用いられてきた.この場合,アルキル化のステップ自体にも強酸などの副生成物が生じ,また,アルキル化剤の合成自体においても化学量論量以上の活性化試薬が必要となるため,グリーンケミストリーの観点からは必ずしもよい手法とはいえない.この問題点は,アルコールそのものを直接アルキル化剤として使用することで解決できる.

そのような方法として,触媒的な水素移動によるアルコール分子を活性化を利用するBorrowing Hydrogen法が挙げられる.この方法では,触媒という分子の作用によって,一時的な分子の活性化,求核的試薬との反応,そして水素化という三つのステップがひとつのフラスコ内で一挙に行われ,アルキル化が完結する.この際,生じる廃棄物は理論的には水のみとなる.

 

ヘテロ環のアルキル化


当研究室では,この方法に基づき,Pd/C, Ru錯体,Ir錯体などを触媒として複素環化合物のアルキル化に成功した.

 

β-アミノアルコールの不斉合成


また,Borrwoing Hydrogen法を利用する触媒反応としては珍しい不斉合成の例も報告した.この方法では,アドレナリン類に代表されるβ-アミノアルコール類を良好な立体選択性で合成することが可能である.

 

 

ヒドロアミノ化・ヒドロアルコキシ化


さらに,この方法論に基づき,これまでに報告例のない触媒的なヒドロアミノ化やヒドロアルコキシ化にも成功している.これらの場合,上述の反応とは異なり,求核試薬との反応の過程が脱水縮合ではなく付加反応であるため,アトムエコノミー100%の反応が実現できる.

 

 

ヒドロキシエチル化


エチレングリコールは安価なヒドロキシエチル源であるが、二つの反応点を有するためモノアミノ化とジアミノ化が競合し、それらを制御する必要がある.RuCl2(PPh3)3とxantphosから調製した触媒を使用すると二級アミンのヒドロキシエチル化を効率的に進行させることができる (Heterocycles 2019).

 

Borrowing Hydrogen ✕ Lewis Acid-Catalyzed C(sp3)-H Activation


Lewis酸触媒存在下、2-メチルキノリンなどの複素環化合物をアルデヒドなどと反応させると、脱水縮合反応が生じてC=C結合を形成することが知られている.このLewis酸触媒反応とBorrowing Hydrogen法を協奏的に働かせることができる新たな触媒反応を開発した.本法では、従来のBorrowing Hydrogen法で用いられるKOButのような強塩基を用いずとも目的の反応を進行させることが可能である (Chem. Lett. 2019).